1.人間の尊厳と自立

人間の尊厳とは

 「自尊心を持ち、自分が生きていることを肯定できること」

 例)夫による暴力を受けている妻がいます。毎日のように暴力をふるわれ、「そうさせる、私がわるいんだ・・我慢するしかない」と考えてしまう状態。これは尊厳が傷つけられている状態です。しかし、「私は何も悪くない!必ず自立して離婚してやる!ついでに慰謝料をぶんどってやる!!」このように考えているなら、尊厳は失われていません。

 

■自立とは

 「現状の個人的・環境的条件のもとで、自身の生活(衣食住、仕事etc)を自らの意思で選択し生活設計をすること」

 前提に自律(他からの支配や制約を受けずに自分自身で立てた規範に従って行動すること)がある。自立を現実的、効果的に達成するには、自分で立てた規範に従って、自分のことは自分で決めていくという精神的自律が求められる。

 

エンパワメントとは

 本来は「力をつける」という意味であるが、介護福祉においては、障害を持った方、あるいはその家族がより内発的な力を持ち、自らの生活を自らコントロールできること、または、自立する力を得ること

 

ノーマライゼーションとは

 社会福祉について考えるときの重要な概念の一つで「障害者(社会的マイノリティも含む)が一般市民と同様の普通の生活・権利などが保証されるように環境整備を目指すこと」

具体事例として、インテグレーション教育(障害児と健常児が同じ学校で、同じ教育を受ける)、障害者雇用機会均等法などがあげられます。

★障害を抱えている人たちを訓練して普通の生活ができるように支援するということではなく社会環境の方を障害者や社会的マイノリティが普通に暮らせる方向に整備していこうという概念。

 

■世界における主な尊厳と自立に関する歴史的経緯

1776年
アメリカの「独立宣言」
すべての人が平等。生命、自由び幸福追求の権利を有する

1789年
フランスの人権宣言
人は自由かつ権利において平等なものとして生まれ、生存する

1919年
ドイツの「ワイマール憲法」

世界初の生存権を掲げた憲法
生存権:人間が人間らしく生きる権利

1948年
国際連合の「世界人権宣言」
すべての人が生まれながらにして自由である
すべての人が尊厳と権利について平等である
すべての人に社会保障を受ける権利がある

1975年
障害者の権利宣言
障害者は、その人間としての尊厳が尊重され、生まれながらの権利を有している。第30回国連総会で決議された

※ワイマール憲法と聞いたら、世界初の生存権と頭に浮かぶように赤字を記憶しておきましょう

 

■世界の障害者福祉の取り組みの発展

1975 
障害者の権利宣言
30回国連総会で決議された。障害者の定義、権利の保障を明示

1981
国連が1981年国際障害者年と定める。テーマは「完全参加と平等」
主な内容は・障害者の身体的、精神的な社会適合援助、就労の機会補償、日常生活への参加の促進、社会参加権の周知徹底のための社会教育と情報の提供など

1983年~1992年
国連・障害者の10年
国連が1981年を国際障害者年と定めた際の全体のテーマである「完全参加と平等」の具体的目標を実現するために、「障害者に関する世界行動計画」とともに決議採択したもの。世界で障害者の福祉や自立援助、教育などの政策を計画的に充実させていくことが求められ、同計画がそのガイドラインとされた。

1990
ADA(障害を持つアメリカ人法)が制定された
障害者が不当な差別を受けることなく仕事に就き、レストランやホテルに入り、バスに乗り、公共のサービスを利用する、そうしたあらゆる権利を保障する法

2006
障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)
障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約。 

第61回国連総会で採択され、日本は2007年に署名している。

 

■人権と日本国憲法

人権とは「すべての人々が生命と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」あるいは「人間が人間らしく生きる権利で、生まれながらに持っている権利」

 人権を持っているものとしては、まず自然人が考えられるが、日本国憲法の人権規定は、制限的ながらも法人外国人にもその主体となることが保障されている。

自然人:近代法のもとで、権利能力が認められる社会的実在としての人間のことで、法人と対比されている概念。単に「人」とも言う。

※自然人と法人、外国人の人権規定は同じではない。(外国人は国政への参政権は認められていない等)

法人:法律によって「人間扱い」が認められた組織。
(例)誰かに殴られてケガをした場合、訴えるならばこの相手です。この場合は相手が人間なので迷わない。しかし、とある会社のオフィスで自動ドアが誤作動をおこし、ケガをしたような場合、誰を訴えるか。その会社の社長?その時にいた社員?裁判の当事者になる権利は個人(自然人)だけでなく会社(法人)にも認められているので“法人としての会社を訴えればよい”←人間扱い

 

■日本国憲法は、基本的人権公共の福祉に反しない限り認められるとしている。
※公共の福祉とは
一人一人の人権を保障すると必ずどこかで衝突する(例えば、愛煙家と嫌煙家)そこでルール(法律や条例など)を設けてみんなの人権を少しだけ制約して妥協してもらう。人権と人権の矛盾・衝突を公平に調整するために法律や条例で人権相互を調整する。これを公共の福祉という。

思想及び良心の自由公共の福祉による制限は認められない。
※心の中で思うこと(何が好き、信仰etc)は一切制限されない

■財産権:相当な補償のもとで公益上の制限が認められる。

 例)国の安全のためにどうしても必要な個人の土地があり、国が強制的にその土地を取得する。ただし、その損失は法律にのっとり補償される。というような場合。

 

朝日訴訟
療養所に入所している生活保護者が、親族から仕送りをもらったところ、生活保護費が減額されたうえに、その仕送りの一部が自動的に療養費に充てられ、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という憲法が保障した権利を侵害するとして起こされた訴訟。

結局裁判は、原告(朝日さんという名前)が亡くなり終了したが、この裁判によって、生活保護や社会制度のあり方について考える契機となった。

 

◆日本における人間の自立と尊厳に関する規定

★以下では設問に使われそうな箇所をピンポイントで抜き出している。詳細は「社会の理解」等他の科目にて。ここではキーワードを覚える程度でよい。

■日本国憲法

13
すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする

25
すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない

※25条で生存権(社会権)を保障している

 

 

■介護保険法
1条

加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービスおよび福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に戻付き介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする

 

■障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法※旧障害者自立支援法)

1条
障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする

1条2項
障害者及び障害児が日常生活又は社会生活を営むための支援は、すべての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに障害者及び障害児にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨として、総合的かつ計画的に行わなければならない。

3条
すべての国民は、その障害の有無にかかわらず、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営めるような地域社会の実現に協力するよう努めなければならない

 

■高齢者虐待防止法
1条

高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要である

※「高齢者虐待防止法」では身体的虐待介護の怠慢・放棄(ネグレクト)心理的虐待性的虐待経済的虐待などについて規定されている。
※経済的虐待:財産を勝手に処分する等

 

■社会福祉法
3条
福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない
↑福祉サービスの基本理念

 

 

■生活保護法
3条
この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない

 

■児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)
身体的虐待介護の怠慢・放棄(ネグレクト)心理的虐待性的虐待経済的虐待の4つが規定されている。

 

■児童福祉法
児童福祉法では現に入所している児童だけでなく、退所後の児童も自立支援の対象としている。

 

■配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)
配偶者(元配偶者、同居する交際相手も含む)からの暴力(身体的なものに加えて、精神的なものも含む)を受けているものを発見した者による通報や、被害者の生命や身体に危害が加えられること防止するための保護命令などについて規定している。夫婦間の暴力に対して他者の介入を認めている。

 

 ■成年後見制度とは
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方が不利益を被らないように家庭裁判所に申し立てをして、その方を援助してくれる人を着けてもらう制度。後見人には親族のほか、法律や福祉の専門家、その他の第三者などから選択することができる。

 例えば一人暮らしの老人が悪質な訪問販売員に騙されて高額な商品を買わされてしまうといった場合に成年後見制度を利用することによって被害を防ぐことができる場合がある。

 また、成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図りつつ自己決定権の尊重残存能力の活用ノーマライゼーションの理念をその趣旨としており、仮に成年後見人が選任されても、スーパーでの買い物や、服などの買い物といった日常生活に必要な範囲の行為は本人が自由にすることができる。

■糸賀一雄(いとが かずお)について
日本で初めての知的障害のある子どもたちの施設となる近江学園を設立した。著書の「この子らを世の光に」の中で、たとえ障害があって生まれてきても、一人ひとりかけがえのない存在といての輝きがあり、それを支えるという人間の発達する権利とその補償を目指す発達保障について主張している。社会福祉の父とも呼ばれる。

 

 

2.介護における尊厳の保持・自立支援

 

権利侵害

 

虐待による権利侵害~

■意識や認識不足による権利侵害
例)
・施設の規則にそぐわないからの一点張りで、利用者のやり方を受け入れない
・本人の意向にかかわらず介護者の都合で介護を行う。

 

■高齢者などへの詐欺といった悪意による権利侵害
利用者が本来利用できるサービスについて、制度の十分な情報提供が行われていなかったり、相談や支援の体制が十分でなかったりするために、結果として生活上の支障をきたしている場合も権利侵害といえる

 

■援助者側が原因となる権利侵害

 例)自分で歩きたいとの希望があり、少しのリスクはあるが杖を使えば歩行できる利用者の家族が“転んでけがをしたら危ないから”という理由のみで杖を持ち帰ってしまうような場面

■利用者の心理状態が原因となって生じる権利侵害
利用者が遠慮や慎み深い性格のために、自分の希望に沿わないことを我慢したり、諦めたりしてしまう。援助者は注意深く観察しなければ気づきにくい。

 

権利侵害に対して、介護福祉士として個人で対応するには限界もあるため、地域包括支援センター社会福祉士などと連携して対応することが求められる

地域包括支援センター
原則市町村に一か所以上設置することになっている。定数に決まりはなく、市町村によっては10か所以上配置しているところもある。(複数の市町村が広域連合を組織し共同で設置する場合もある)各センターには、専門職員として社会福祉士保健師主任ケアマネージャーが配置され、主に地域内に住む高齢者の「総合相談」「介護予防」「サービスの連携・調整」などの業務を行っている。なお、地域包括支援センターが担当する地域を「日常生活圏域」と言っている。

社会福祉士
専門的知識及び技術をもって、身体上もしくは精神上の障害があること、または環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する

 

 

◆権利擁護

 

■アドボカシーとは
代弁(アドボケート)権利擁護の意味で使われる。自分の意志を表明することが難しい利用者に対して、介護福祉士はそれを代弁する役割がある。


■ソーシャル・エクスクルージョン(社会的排除)とは
出身や特徴などの属性で不当に評価されること

 

■ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)とは
「すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念

 

■権利擁護と介護福祉士の役割
利用者の権利擁護のために、介護福祉士は、利用者主体の支援になるように常に意識し、利用者の自己決定を尊重しなければならない。また、利用者やその家族に対して、抑圧された意識を取り除き、利用者が権利侵害を自らが認識して、権利の回復に立ち向かえるように支援していくエンパワメントの視点を持つことも大切である。利用者本人と家族の意向や見解が食い違う場合は、利用者本人の権利擁護を中心に置きながらも家族全体としての福祉の実現を支援していかなければならない。介護福祉士には専門職としての人権意識を常に持ち、利用者の権利を常に考え続ける姿勢が求められる

 

 

◆自立支援

 

 利用者が自らの意思に基づき、自立した質の高い生活を送ることができるように支援すること。利用者が意欲をもたない状態での自立支援は、自立の強要になりかねない。利用者の心から生じた欲求が自立への意欲につながり、その積み重ねが生活全般の意欲を高めていく。また、利用者が「必要とされている」などの役割を実感できるように支援することも生活の意欲につながる。

★「自分でできるようにするための支援」と把握されがちであるが、“自分でできるようにする”のは質の高い生活への手段であって目的ではない。以下の事例で確認してみる。

~AさんとBさんのどちらが自立しているか~

「AさんBさんともに体に障害を抱えていて、身体的、精神的な条件は同じであり、朝食後は外に出て、喫茶店でコーヒーを飲みながら新聞を読みたいと思っている。また、両者とも職員の介助には抵抗がない」

 

Aさん
朝食後、歯磨き、トイレ、外着への着替えを行われる。すべて自分で行えるが、トイレと着替えの一部大変なところを介護職員に手伝ってもらい、30分ほどで出かける準備が整い、喫茶店に行かれる。

Bさん
朝食後、歯磨き、トイレ、外着への着替えを全て自身で行われる。2時間近くかけでかける準備をされるが、疲れてしまい、そのまま部屋で休まれている。

AさんとBさんどちらが自立していると言えるだろうか。この事例ではAさんである。

※自立とは:「現状の個人的・環境的条件のもとで、自身の生活(衣食住、仕事etc)を自らの意思で選択し生活設計をすること」

 

ただし、AさんBさんが“自分のことは自分でやる”ということを自身の生活の中で一番重要と考えている場合にはBさんのほうが生活の質が高いと言える場合もある。

たとえ、寝たきりや、認知症になっても、自分の意志で生活をコントロールできるように支援することが大切である。全介助や認知症であるから「自立していない」ということにはならない。何を自分の力で行い、どの部分で介護職員やサービスに依存するかを自分の意志で選択できることが大切である。
つまり、自立支援とは、利用者の個別性を尊重し、そのライフスタイルに沿って自分らしく生きることを支援することである。

 

 

■身体拘束の禁止
介護保険法の施行に伴い、身体拘束は原則として禁止された。

~身体拘束となる具体的な行為~

  • 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  • 点滴、経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  • 点滴、経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける
  • 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
  • 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
  • 脱衣やおもつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  • 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  • 自分の意志で開けることのできない居室等に隔離する。

★上記を丸暗記する必要はありません。

 

■身体拘束のやむを得ない場合とは

  • 切迫性(今にも問題が起こるような状態になること)
  • 非代替性(ほかの物で代わりになることができないこと)
  • 一時性(少しの間、その時だけ)

 ①~③の3つの要件をすべて満たした場合

 

■利用者の尊厳を保持し、自立支援を行うために介護福祉士に求められる義務
信用失墜行為の禁止 ②秘密保持義務 ③福祉サービス関係者等との連携 ④誠実義務 ⑤資質向上の責務

などが社会福祉士及び介護福祉士法に定められている